かすみ日記

近隣の騒音~引越おばさんとフライパン騒動

投稿日:2005/09/01/ | カテゴリー:日記

弁護士 福田貴也  
 
 今回は、ややワイドショー的な話である。
 以前、「引越おばさん」事件が世間を騒がせた。報道によれば、件の人物は、隣人への嫌がらせ目的で、日がな大音響で音楽を流し、車のクラクションを鳴らし、大声で叫びながら布団を叩く、などして騒音を立て続けたという。これらの騒音により、隣人は精神的な傷害を受けたため、件の人物は傷害罪で逮捕された。
 
 2,3日前テレビで見た事案。件の人物は、隣のマンションから異臭が漂ってくるなどとして、仕返しと称し、マンション側が設置した金属壁(この人物の苦情に配慮して設置したものだという。)を棒で叩き、フライパンを金属棒で叩き、ラジオを大音響で流すなどして、騒音・振動を立て続けているという。。
 
 自分の回りで起きたら、と考えるとゾッとする。落ち着く時間がない。睡眠。子どもや胎児、母体。団欒の時間。日常生活が破壊される。注意するにも「怖い」という感覚が先立つ。相手と近隣住民集団(町内会など)で話し合いを持とうにも、応じる気配も薄い。役所にお願いして注意してもらっても、「強制的にやめさせることはできないんです。」と言われてしまう。
 
 無論、かかる人物にも相応の事情があろう。精神的な問題や同情すべき事情。もしかしたら、マンションから異臭や音が漏れることもあったかも知れない。
 しかし、いかに同情すべき個人的事情があるにせよ、近隣の迷惑とは無関係である。対策を採らなければ、こちらが参ってしまう。どうするか。江戸時代のような「処払い」などという刑罰はない。

 
 
 民事的な対策としては、仮処分の申請から始まり、当該行為の禁止、慰謝料を求める本案訴訟提起という流れになろう。禁止を命じる判決にも従わなければ、違反行為を1日行う毎にいくら支払え、などという間接強制の申立てを行うことにもなる。
 もっとも、命令に従ってくれればいいが、独自の理屈に基づく「仕返し」を考えている人物である。命令にも従わず、任意にお金も払わない、差し押さえるべき財産もないことも予想される。
 そうすると、直接的にやめさせる方法、刑事的な対策という話になる。
 
 
騒音自体を取り締まれないか。
 かろうじて軽犯罪法が「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静謐を害し近隣に迷惑をかけた者」を拘留又は科料に処する、と定める。
 しかし、拘留は「1日以上30日未満」の拘置、科料は「1000円以上1万円未満」の金銭納付を科すだけの処罰である(刑法16条、17条)。
 仮に、判決が拘留刑を言い渡したとしても、すぐに自宅に戻ってきてしまう。

 
 
では、騒音自体ではなく、騒音により生じた結果を問題にすればどうか。
 冒頭の「引越おばさん」事件では、件の人物は傷害罪(刑法204条)で起訴された。傷害罪にいう「傷害」とは、人の生理的機能の障害を生じさせることを言うものと一般的に理解されており、必ずしも身体の組織を物質的に破壊することに限られない。したがって、近隣住民が、「不眠症」や「ノイローゼ」にかかったという診断書を取得することさえ出来れば(もちろん、騒音によって症状が出た、ことが前提である。)、傷害罪での立件は十分可能である。10年以下の懲役又は30万円以下の罰金。余談だが、新聞等でたまに見かける、いたずら電話を何回もかけて被害者をノイローゼにさせた、という事案も、傷害罪で処断される。
  近隣で迷惑を受けている中に、会社(事業者)はないか。あれば、威力業務妨害罪(刑法234条)で対処できる。こちらは3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。
  刑法的には上記の対応が精一杯か。なお、件の人物が毎日叩いている金属壁、これが壊れれば器物損壊(261条)-3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料。
 
 
 いずれにせよ、被害住民が結束する必要がある。証拠作りの面(手分けして録音・ビデオ撮影もよし、騒音振動を計測もよし、被害日記を書くもよし。)、告訴の面(警察はなかなか告訴を受理しない。集団で被害を切々と訴え、証拠を提示する必要がある。)、精神的な面(苦しみを共有する者がいる、気持ちを吐露するだけでも違う。)。

 
 
 なお、先に挙げた2件のような極端な事案でない場合(隣の家が毎日深夜まで大騒ぎしてうるさい、など)。わざと騒音を出しているような場合でなければ、刑事的には難しい。民事的には、前記したところと枠組みは同じだが、より「受忍限度」を超える騒音なのか、がポイントになる。簡単に言えば、それが「お互いさま」で済ませられる限度を超えたかどうか、の問題である。
 とは言っても、本来、隣近所の問題は、法的措置の前に平和に解決したいものである。