
つい先日,事件が解決したケースである。
依頼者Aさんは,大手仲介業者の折り込みチラシを見て,初のマイ・ホームとなる中古マンションを「Y社」から購入し,リフォームを済ませて快適に暮らしていた。
ところが,数か月後。「Y社」の前の所有者という「X社」の破産管財人から連絡が入った。曰く,①X社が以前行ったY社へのマンション売却は,代表権限のない従業員が勝手に売却したもので無効だ,②X社は破産し,自分が破産管財人に選任されたが,職責上,X社の財産を保全する義務があるので,Aさんに対して,マンションの返還(登記名義の回復)を求める裁判を起こさざるを得ない,というのである(なお,Aさんの他にも,別のマンションについて裁判が同時進行していた。)。
売買無効? 売 買
X社 → Y社 → Aさん
破産管財人 売 主 買 主
理屈では,X社・Y社間のマンション売買が無効だとすれば,Y社は所有権者ではないのだから,Aさんの購入の無効となる。なるほど,X社の破産管財人は,Aさんに同情しつつも,X社の総債権者のため,マンション返還を請求せざるを得ないだろう。Aさんにとっては,晴天の霹靂,災難と表現するほかない。
その場合,Aさんは,Y社に売買代金を返せと言えるが,Y社は小さな会社であるから,大きなリスクを抱えることになる。なんとしてでも,Aさんの所有権を確保したい。
実は,このようなケースは,民法を勉強した人が必ず目にする教科書事例である。しかし,実務的には意外と多くはないのではないか。
教科書的模範解答は,こうである。「登記に公信力がない現行法上,Aさんは所有権を取得できない。しかし,民法94条2項を類推適用することで,無効であるはずのX社・Y社間の所有権移転があたかも有効であるかのように登記されていることについて,X社に責任があり,かつ,Aさんが当該移転登記を有効であると信じた場合には,Aさんは有効に所有権を取得できる。」。
折り込みチラシを見て購入したAさんが,X社・Y社間の移転登記を信用していたことは明らかである。問題は,「X社の責任」という要件だ。
裁判により,X社の代表取締役は,社員が無断でマンションを売却したことを,後日知ったにもかかわらず放置したため,このような事態になったことが明らかになった。
こうして,X社の帰責性は明らかとなり,無事,マンションは完全にAさんのものとなった。
文責:福田 貴也
カテゴリー:一般民事事件 更新日:2011/07/04/